フランスの墓石は個性豊かでおもしろく、とくにパリの墓地にはたくさんの有名人が眠っているので、観光で来る人も大勢います。
そこでお墓にメトロの切符が供えてあることがあるのですが、その由来は知っていますか?
由来を知っていれば、切符を供えるお墓は本来一箇所でいいこともご存知だと思います。
もし知らなければ、パリでお墓まいりに行く前に、ちょっと私の話を聞いてくださいませ。
ゲンズブールの名曲にちなんで
モンパルナス墓地をぶらぶらして、セルジュ・ゲンズブールのお墓に行ったことがありました。
ゲンズブールは1958年に歌手デビューしてフランスの音楽界で大活躍した人で、彼のお墓はモンパルナス墓地のなかで一番訪れる人が多いそうです。
そのお墓には、メトロの切符がたくさん散らばっています。
彼のデビュー曲は「Le poinconneur des lilas(リラの門の切符切り)」というタイトルで、この曲の歌詞の主人公はメトロの駅の改札係です。
それにちなんで、お墓にメトロの切符が供えてあるわけですね。
しっかし名曲です。
サルトルとボーヴォワールのお墓にも
そのまま二番人気のサルトルとボーヴォワールのお墓にも行ってみました。
このふたりはとても有名な哲学者で、普通の結婚とは違う「契約結婚」という独自のスタイルでパートナーとしての生活を送り、今は一緒のお墓に入っています。
彼らのお墓に近づいて見てみると、やはりたくさんのお花とメッセージが。
それからメトロの切符。
…あれ?
ボードレールのお墓にも
次は「悪の華」で有名な詩人・ボードレールのお墓に行ってみました。
お墓にはお花と、やはりメトロの切符。
なんじゃこりゃと思っていたら、
「ゲンズブールの歌を知らない観光客がパリの風習だと思ったのか、今では誰のお墓にもメトロの切符を置いていくんですよ」
と、親切なおじいさんが教えてくれました。
おじいさんはさらに、
「このお墓にはボードレールと彼の養父が一緒に入っているけど、ふたりは非常に仲が悪かったんですよ」
と教えてくれました。それは別件ではあるが大変だ。
余談:おじいさんとモンパルナス墓地めぐり
そうこうしているうちにおじいさんと意気投合し、結局2時間にわたるお墓参りツアーに出かけました。
案内してもらったお墓は
- マン・レイ(芸術家)
- イオネスコ(劇作家)
- プルードン(無政府主義者)
- サミュエル・ベケット(作家)
- セザール(彫刻家)
- ポール・ベルモンド(彫刻家)
- ジャック・ドゥミ(映画監督)
- マルグリット・デュラス(作家)
- ソニア・リキエル(デザイナー)
- モンパルナスのキキ(界隈で一世を風靡した女性)
- ピエール・ラルース(辞書の人)
- ニコラ・ジャック・コンテ(筆記具メーカー「コンテ」創立者)
- ブシコー(世界初の百貨店「ボン・マルシェ」創立者)
など。
お墓ひとつひとつに解説がつき、おじいさんの博識に驚くばかりです。
知識だけでなく、
- ソニア・リキエル埋葬の様子を偶然見かけたこと
- 彫刻家セザールのお墓にあるモニュメントは本物ですか、とお墓にいる人に聞いてみたら奥さんだったこと
など、貴重な話も聞かせてくれました。
最後に案内してくれたのはデュラスのお墓でした。
ようやく最近お墓に入ったデュラスの年下の恋人の名前を見て「ブルターニュ系の名前ですね」と言ったら、子どもを褒めるようにしてキャラメルをくれました。
おじいさんの奥さんもモンパルナス墓地に眠っているそうです。
まとめ
フランスの墓地を散歩するのはなかなか楽しいものです。
お墓といってもおどろおどろしい雰囲気はないし、パリの墓地ならいろいろな有名人のお墓をみて歴史を感じることもできます。
でも、メトロの切符を供えるのはセルジュ・ゲンズブールのお墓だけでいいですからね!
追記
パリメトロは2021年10月に、紙の切符の販売の段階的停止を開始しました。
すでに販売されたチケットはまだしばらく使えますが、お墓にメトロの切符が供えてある風景も、そのうちまるごと過去のものになりそうです。
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