伊丹十三監督の『たんぽぽ』がパリの映画館で上映されていたのは2015年の冬でした。
「ラーメン屋の話かあ」ぐらいのテンションで見に行ったらもうあなた。
人生のあらゆる側面を「食べる」という視点から切り取ったオムニバス的な、なんかすごい映画でした。
その後ふと、伊丹十三のエッセイ『ヨーロッパ退屈日記』『女たちよ!』『再び女たちよ!』を読んでみたのですがもうあなた。
豊かな知識と鋭い観察と限りなく黒に近いグレーなユーモアが非常に面白いエッセイでした。
これはもう、どんな方にもおすすめします。
伊丹十三の経歴は多彩
私は伊丹十三を映画監督としてしか知りませんでしたが、若き日の伊丹十三はデザイナー、その後俳優、エッセイストだったそうです。
本の装丁もご本人の手によるものあり。
1960年代に俳優の仕事のためヨーロッパに滞在した経験が『ヨーロッパ退屈日記』というタイトルで本になり、当時としては斬新だった文体は、現在のエッセイのはしりと言われています。
こんなに重要な作品を今まで知らなかったとはなんてこった。
ちなみに本になる前は、壽屋(現在のサントリー)の広報誌、『洋酒天国』での連載だったそうです。
『洋酒天国』って、編集兼発行人が開高健だった、あの!なるほど!
あんまりおもしろくてChapeau ! (脱帽)
伊丹十三ってすごく魅力的ですね。
頭がよくて趣味もよく、そのうえとても繊細なところあり。
実用的な知識が満載
伊丹十三のセンスで選ばれたエピソードと考察が絶妙で、
- 外国人向けハラキリの詳細な説明
- スパゲティの正しい作り方
- 犬の歯を根こそぎ抜く方法
- 耳にバナナが詰まっている紳士の話
など、明日から使える実用的な知識が満載です。そうなんですよね、耳にバナナがねぇ。
贅沢しているのに下品じゃない
上質なもののためにイギリス・フランス・イタリアをまあ縦断してます。
- 高級車(ジャギュアやロータス・エラン)を買う
- 服を買う
- 靴を買う
- 手袋を買う
などなど。
高級品の話に終始したらそりゃあ鼻につくだろうと思いますが、それ以上に興味深い人との会話であるとか、心惹かれる知識や経験が随所に盛り込まれているので、全体としてぜんぜん嫌味じゃありません。
外国語と外国人についての感性
ヨーロッパでは英語でコミュニケーションをとってらしたようですが、外国語を話すときに感じる劣等感の考察なんか非常に的確です。
わたくしにとって、彼らは、一個の人格である以前に、外国語そのものであるように思われる
という記述にはすごく共感できます。
考えていることのレベルには大差がない場合でも、あちらが母語でこちらが外国語というだけで、相手が先生のように上の存在に思えてくる不思議。
そのうえ、外国語で話している時って言葉を完全に理解できないからか、母語で話しているときみたいにダイレクトに人格が伝わってこないんですよね。
使う言語によってあらわれる人格が違うという研究もあることだし、OSが違うためになかなか理解できないことってあると思う。
映画もいいけどエッセイもいいですよ
映画が面白いのは知っていたけど、エッセイも相当いいです。
伊丹十三の知性とセンスが素晴らしいうえに、文章もうまくておもしろいんだもの。
この三冊はどれもお気に入り。ブックオフに売りません!
『女たちよ!』の最後にある「配偶者を求めています」の箇条書き項目もロリコン項目を除いてだいたいツボで、時々ひらいてにやにやします。
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