前に読んでからしばらくたっていた本を読み返しました。
田辺保著『フランス語はどんな言葉か』です。
この本はパリにブックオフがあった頃に買ったんですよね。
著者のことも何も知らずに、タイトルに惹かれて買ってみたのですが、こんなに面白い本とは思っていませんでした。
フランス語が少し上達した今、読み返してみると、フランス語の特徴や歴史の勉強になり、あらためて素晴らしいです。
フランス語のできる人や、学習中の人に大変おすすめです。
言葉の勉強は感情の面にも及ぶ
私はフランス語の中で生活して3年になりますが、言語の学習は文法や語彙を覚えるだけでは不十分で、ひとつひとつの構文や単語を、いかに自分の経験や感情とむすびつけられるかが重要だと感じています。
本の中にもそのような記述があり、すこし抜き書きしてみると、
(中略)わたしたちははじめて、フランス人の日常的な感情にぴったり一致しえたと言ってもいいのでしょう。
外国語の勉強がこういう感情の面にまで及ぶべきものだとしたら、じつにまあ、きりもなく困難だということが想像できると思います。
/164ページ
そうそう、外国語の勉強は感情の面にも及びますよね。
私のフランス語はやはりまだ体にしみ込んでいなくて、脳みその表面に張りついている感じ。
それに比べて日本語は、使うと五臓六腑にしみわたる。
日本語の音と、その音が意味するイメージが、ぴったりとくっついているからです。
フランス語の特徴と「こころ」
この本はフランス語のなりたちや語源、その後の変化の歴史に触れながら、言葉の特徴を分析し、それを最終章で「フランス語のこころ」としてまとめています。
自然に対して人間が君臨する場所、自然を人間が自分の保有する規定によって分割し、整然とした秩序のもとに統治する場所、それが地中海世界、すなわち本質的なヨーロッパであるとしたら、フランスは何よりその中心として、ヴァレリイのいうようにこういう人間への信頼によって多くの混沌と雑多を吸収しつつその文明を完成し、普遍に通じる価値をきずき上げたといえるのではないでしょうか。
/236-237ページ
自然を統治しながら人間にとって普遍であると思われる価値を創造したフランス。
自然災害につねに脅かされる日本とは反対ですね。
なるほど、フランスは200年以上前にフランス人権宣言やナポレオン法典を作っていますが、日本の普遍は明文化された法律とはかなり別のところにあるような気もする。
ただその「普遍の創造者」としての自負が悪い方向に働くこともあるわけで、聖バルテレミーの大虐殺やフランス革命のギロチンのように
その背後に一つの形而上的な意思がともなうことによって、残虐さはどうかすると酷薄さの域にまで達することがあるようです。
/241ページ
あるある。「形而上的な意思」を根拠にしたエクストリームさは日本と違う。
だからとりわけひどく他の価値観とぶつかるのかも、とテロの時に感じました。
しかし、ヨーロッパの中心のほかの国にも似たようなところはあるような気がします。
ワールドスタンダードから外れている自覚がある日本人からすると、彼らの「普遍の創造者」意識に出会って「むっ」とすることはあると思う。
閑話休題。フランス語の特徴に話を戻しますと、
何より、ひたすらに構造の美しさを追求し、この理想を完璧の文体の創造によってなしとげた作家なのです。
(中略)薄く澄んだ碧色の空に、あくまでも透明な、明確な、純粋な精神の建築物が一つ一つ、丹念に積み上げられていくのです。
/242ページ
というように、心が認識した「もの」や「こと」を分解して整理し、それを的確かつ簡潔な言葉に構成し直し、美しく積み上げる。
それがフランス語のようです。
日本語となんて違うことだろ。面白いですね。
フランス語の理解が深まります
外国語を勉強する時に、その言葉の特徴と「こころ」を知っておけばきっと役に立ちます。
フランス語の理解をもっと深めたい人、フランス語を勉強中の人には、この本をぜひおすすめします。
いい本なのでもっと知られてほしいです。
【追伸】
ところで日本の学校で英語を勉強する時に、少しでいいから英語の「こころ」も教えてくれるといいのにな。
そんなことが念頭にあれば、google翻訳の変な文だとか、単語を入れ替えただけの変な文だとか、「ひとつよろしく」と言いたくて「one please」と言ってしまう人(ある政治家が実際に発したそうです)も減るのではないかと思うのですが。
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